うたかたの夢

以前、「この方位に移動したら、ご利益があるんだぜ」的な方位取りという術的なものについて書いた。
それは見えない力系の先生のさらに先生が不定期に教えてくれるのだが、今月は桁違いに凄い方位なのだという。

いわく、「大金運(鬼)なんです!」と言われていた。

…金運で鬼ってどういうこと?と、普通に思うが、まぁ意訳すれば「鬼のように強力な金運」ということであろう。
金運ねぇ、まぁ、そりゃあるに越したことはないからな…。くらいに思って聞いていたら、

「金運が凄すぎて、一攫千金レベルです!」

と言っていた。

…それは聞き捨てならん。それは話が違う。
方位取りはほぼ一日費やしてしまうが、一攫千金なら安いもんじゃあないか!
しかも最近行った方位取りの後、いい感じのことが起こっている気がするのだ。

今回は土日も行ける時間がある…方位取りは日時の指定があるのだ…。
これは…これは行ける!

土日のうち、3回チャンスがあるが、大金運(鬼)は、同じ月に2回行ってはいけないという制約がある。
重ね掛けすると効果が無くなるか、反転するか、どっちかわからんけど、そういうゲームみたいな設定があるのだ。255を超えると一回転して0に戻る、みたいなものか。

ともかく、3回のうちどれかに行ければよい。
楽勝である。

そして土曜。昨日だが、大雨の予報であり、今年度から避難所班というものに組み込まれており、
しかも俺の班は次の出動である。

むむむ。

これはまずい。
雨雲レーダーと天気予報で天気を予測するに、日曜の午後からは弱まる!
ゆえに土曜は捨てても、日曜の午後に行ける!

勝った。

億万長者は目の前である。

しかし、土曜日の夜に呼び出しが掛かれば、朝8時まで避難所に拘束される。
ほぼ誰も避難してこない避難所でひたすら待機するという新手の拷問を受ける羽目になる。

土曜の夜中、緊急告知ラジオが鳴り響く…。
「避難所の開設をお知らせします。~町、~町…」

…奇跡的に、俺の担当の町は避難所の開設はなし!

波が来ておるわ。

もう寝よう。明日は億万長者への旅路だぜ。
そう思っていたら、LINEが届いた。

時計を見れば午前2時を過ぎている。
誰かと思えば、係員である。

「避難所開設のため、今から避難所に行ってきます。返信不要です」
という内容だった。

係員の担当の避難所は開いてしまったので、出勤になった、というわけだ。
だが、夜中の2時にそれを伝えられても、俺はどうすることもできん…。
返信不要って…そりゃそうだろうが、まぁ、不憫だしLINEくらいしたくもなるか。

気を取り直して眠ると、緊急告知ラジオが鳴り響く。

…緊急告知ラジオは、災害発生時は自動で電源が入る。
しかも強制的にボリュームが最大になり、災害情報を知らせてくれるのである。
用途的に理解できなくもないが、ボリュームを強制的に最大にする必要があるのか?
大いに疑問を感じる。せめて任意で変更できる設定があればよいのだが、
緊急告知ラジオのこの機能はOFFに出来ない地獄仕様である。

ラジオは、既に開設した避難所の情報を流す。
避難する人がいるかもしれないからだ。

だが。今は夜中である。

そして俺の避難所の開設はない。少なくとも今は。
しかも、俺の避難所が開設される際は、班長からダイレクトに連絡があり、
それは広報的なラジオより絶対に早い。
ゆえに、ラジオを付けておく必要はない。

強烈な眠さを抱えたまま、ラジオのある洗面台まで移動し、電源を引き抜く。
前に同じことしたが、内蔵されていた電池のせいでラジオがしゃべり続け、
発狂しそうになって電池を打ち捨ててやったことがある。
あれから電池は抜いたままなので、今のラジオはACアダプタさえ抜いてしまえば機能停止である。

よし…これで安眠だ。

しかし班長からの連絡の可能性はゼロではないため、スマホの電源は切れない。
庁内SNSだけは通知をONにしたまま、眠った。

朝、若干朦朧としているが、億万長者になるためなら、些末なことである。
雨雲レーダーと天気予報を再度確認。
昼に少し雨雲が掛かるが、その後はほぼ降らない。

これで避難所など開きはすまい。

勝った。今度こそもらった。

方位取り開始時間は11:30。
雨はほとんど降っていない。

車に乗り方位取り開始。
長旅になるので、コンビニで軽食と飲み物を調達。
車に戻ろうとすると、結構雨が降って来た。

ま、まぁ行けるだろう。昼前に雨が降るのは想定内。
これが通り過ぎれば、後は弱まる一方である。

高速に乗り、10分くらい走っていると、空が暗くなるほどの雨雲、
滝の様、とまでは行かないが、相当強烈な雨。

そして…市域の全避難所開設のお知らせ。

全避難所ということは、当然俺の担当の避難所も開設である。
最寄りのインターで下道に降り、Uターンした。
『ここで降りると、こんな知らない道があるんだ、楽しいな!』
と感情が止まったまま言ってみたりした。

一応、こんなこともあろうかと、着替えと職場のパソコンも持ってきていた。
最寄りのコンビニの駐車場で作業服に着替え、
避難所へ向かった。

そして、案の定、昼過ぎてから雨は降らず、ただの一人の避難者も来なかった。

約8時間、やることもないので、職場のパソコンで延々と資料作りの仕事をして、俺の億万長者の夢は終わった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました