さかのぼる事1か月。
バレンタインの昼休み、もはや俺には関係ないイベントだと思っていたら、定食屋から職場に戻ると、机の上に何とチョコレートがあるではないか!
なんだ? ドッキリか、嫌がらせか?
小さな袋にちょっといい感じのチョコレートが5~6粒入っていた。
これはまさか。とうとう俺の時代が来たか?
…が、記名がない。内包されたチョコレートは市販のもので、メッセージもない。
仕方がないので、係員に聞き込み。
もしや、係員がくれたのか。
「…え? 昼は買い物に行ってたので、知りません」
「席にはいましたが、気付きませんでした」
「誰なんですかね? 私は見てないです」
…全滅。誰も知らない。
ここは自席でコンビニ弁当食ってた上司に聞いてみるか。
「あー、誰か女性が来てたよ。目の端に見たけど、ちゃんと見てないから誰かわからん」
…唯一の証言が、使えねぇ。
結局、今日まで犯人はわからず仕舞いである。
誰がくれたとも知れないので、開封もせず、引き出しに入れたままだ。
う~ん、相手がわからないと食べる気にもならんなぁ。
上司の話だと女性らしい。うちの課内に侵入してきたということは、職員と考えて間違いないだろう。
そういえば、バレンタインになるとサンタクロースのように大量のチョコレートをばら撒く謎の女性職員がいたな。既婚者だが、彼女ならありうる。俺にもやたらと親し気に話しかけてくるしな。
答えがわかるとあっけないものだな、もうちょっとロマンが欲しかったぜ。
やや冷めた気持ちで、一応聞いてみた。
「私じゃないです!そう思ってもらえるのは光栄だけど」
うっ、違うのか…なんかすごく恥ずかしい。
そんなわけで、最後の最後まで犯人は不明。
誰であれ、お返しに飴玉でもあげたいところだが、それもできない。
そんなことも忘れていた今日の残業中、一瞬、課の扉の向こうに、女らしき人の姿が見えた。
こちらの様子を伺っているようだったが、一瞬で逃げるように立ち去ってしまった。
俺の席は入り口から離れているし、そもそも俺に用事だったのかもわからない。
あ~、誰か全然わからなかったけど、あの人なのか?
妄想が膨らむばかりだが、まぁ、これはこれで夢があって良い。って思うことにしよう。
釈然としないモヤモヤは消えないが、もしかしたら俺に好意のある妙齢のお嬢さんかも知れない。
実は上司のおっさんが…いや、やめよう。
これからもっと夢のある展開が訪れるに違いないから、わからないまま放置しておくとしよう。
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