今日も課長はひとりで残業

昨日、避難所で暇だったので、会議資料を作っていた。

会計管理者が幹部の集まる会議で、市の経営状態を報告するための資料だ。

去年の決算と一昨年の決算を比較して、
去年は工事が多かった、とか、
災害対応が減った、とか、
そんな話をするための基礎資料である。

これを課長に頼まれていたのだが、課長は会計管理者に頼まれて、
そのまま俺にスライドしてきているのである。

まぁ、仕事なので、作るのは良い。
時間は掛かるが大して頭を使う仕事でもない。

しかし、課長は俺に資料作成を振っておきながら、自分でも同じ資料を作っている。
何の意味があるのか。

『課長、同じ資料作るならどちらか一方だけでよいのではないでしょうか?』

課長が作るというなら、俺は作らない。無駄な作業したくないからな。

「私が作りたいけど、時間が掛かるから。係長が作った方が早いと思うから…」

いや、だったら俺が作って終わり。でいいじゃん。

『ふたりで同じものを作ったら、無駄ではないかと…』

「もし私が作れなかったら、係長のを使わせてもらおうかなーって。」

は?
何だそりゃ。俺は保険ってことか。

「私は半日以上かかるけど、あなたならすぐに作れるでしょう?」

いや、俺でも半日は掛かる。
申し訳ないが、システムに疎い課長では1週間はかかるだろう。

だから、無駄なんだって…。
資料は俺に作らせて、それを読み込んで、幹部に何を伝えるかを考えて、
会計管理者と調整するのがアナタのお仕事ではないの?
俺と一緒に同じ資料を作る必要性は何?

「私も資料、作ってみたいの」

…。

あ、そう。

もういい。これは説明しても、説得は難しい。
さっさと提出して、課長が気の済むようにしてもらおう。

『とりあえず、もう作りましたので、良かったら使ってください。
 課長が作られるなら、そちらをご使用ください』

俺は俺の役目は果たした。端数計算の調整くらいは残っているが、
99%出来ているから、好きなようにしてくれ。

指定金融機関との調整、インボイス対応の仕様検討、ISDN回線廃止の調整、
決算書の校正…やる事が腐るほどある。
この課長と同じものを作るお仕事、めちゃめちゃ無駄なのだが…。

「作ってくれて、ありがとう! もう、これで行こうかしら?」

はいはい。
どうせこうなるような気はしていましたよ。

よし、わかった!
この幹部会議用の資料作成のお仕事は、俺の仕事なんだ。

会計管理者に「わしが作る」と言われようと、
課長に、「私が作る」と言われようと、
これは罠で、俺が作らないといけなかったのだ。

言葉を真に受けるから、いちいち心が動揺するんだな。
何事も波動で捉えろ。そういえばそんなことを言われていた。

よくよく思い出してみれば、一番最初にこの話を聞いたときの課長のセリフ、

「幹部会議の資料は私が作ります! でも係長に手伝ってもらうかも…」

の波動はめちゃめちゃ低かったじゃあないか。

全然、言葉に真剣さがなかったもんな。
意識は知らないが、心の奥底では作りたくなかったに違いない。
後半に本音が出ちゃってるし。

あーもう、マニュアル作って次から係員にやってもらおう。

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