昔は素手で行く事もあった話

昨日、寝る前にベッドに向かい歩いていた。

ワンルームのため、数歩で辿り着くのだが、視界の端に動くものが写った。

超有名なあの黒い害虫である。

近視と遠視が複合して、近くも遠くもない、ほど良い距離でしか正しく像を結べない状態でも、それが奴だと確信が持てた。

先月解約したが、まだ残っていた新聞紙を丸め、武器を作成。

恐る恐る出没地域を捜索するが、敵の姿はない。

棚の下か、ベッドの下か…。

このまま眠るにはリスクが大きい。とはいえ姿が見えないので対処方法は限られる。

1 家具を動かして姿を見せたところを叩く

2 コンビニか薬局へ向かい、専用駆除アイテムを購入する

3 何もなかったことにして寝る

さぁ、どれが正解だ?

1は、発見したとて次のストラクチャーに身を潜められる可能性が高い。その上、興奮状態になるので眠れなくなる。後、何か姿を見るのが怖い。却下。

2は、面倒くさい。ただただ面倒くさい。なぜ不法侵入した奴のために、俺がわざわざ着替えて、毒団子や粘着ハウスを買ってきてやらねばならないのだ。理不尽である却下。

3…これしかない。

明日だ。翌朝職場に行って、昼休憩に害虫用のアイテムを買う。そして昼に仕掛ける。これだ。

よし、寝よう。

ベッドに寝転んでみたものの、奴は確実にこの部屋にいる。

『玄関の下の隙間から出て行け。今出ていけば命までは取らぬ』

念を送ってみるが、昆虫に念が通じるのかは疑わしい限りだ。

もしかして…玄米が入った米袋に侵入しているのでは?

米袋内でコミュニティを形成しているのでは…おぞましい。

そんな想像を始めると、脳が興奮して全く眠れない。

米袋を開けて中を見れば解決する話だが、もし、万分の一でも袋の中に奴らの楽園があったなら、正気を保てる気がしない。

『何も考えずに寝なければ。何も考えるな!』

思えば思う程、眠気は遠のいて行く。実際に眠ったのは、床に就いてから2時間は経っていただろう。

朝、早朝に目覚め、完全に寝不足である。

たかがゴキブリごときで何をあんなに悩んでいたのだろう。

見つけたら潰せばいいだけじゃないか。

理由がよくわからないが、朝の俺は強くなっていた。

強くなっているとはいえ、やはり気持ちの良いものではない。

…意を決して米袋を空けてみた。

ぱっと見で奴らが入っていた痕跡はない。普通に玄米が入っているだけだ。

一旦職場に行き、昼休憩に定食屋で急ぎ目に昼食を摂る。

普段大して話しかけてこない、定食屋の常連のおっちゃんにやたらと話しかけられる。

「今、業界は好景気だが、技術者がおらんのんよ」

なるほど、貴重なお話を是非伺いたいところだが、俺は今それどころではない。

『家に害虫が出たので、今から駆除グッズを買いたいので失礼します!』

急に言い放つと、「それは…大変じゃね、帰りんさい」と、おっちゃんは失笑して話をやめた。

すまん。

足早にコンビニに入り、駆除グッズを探すが、殺戮するスプレーしか置いていない。

そうだ、薬局だ!

駅前の薬局まで足早に歩き、粘着ハウスと毒団子…コンバット的な奴を買う。

家に戻り、粘着ハウスを2つ仕掛ける。

昨日奴を見た場所と、冷蔵庫の近くだ。奴は絶対このどちらかを通る。

…今日は飲み会があったので、帰宅したのは先ほどである。

そして今これを書いている。

粘着ハウスには奴が留まっているはずだ。

でも、怖いから今日は見ない。

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