去年の今頃、引っ越しがしたいと思っていた。
部屋が散らかっており、片付けたいが、俺はどうにも片付けが苦手である。
ソファは座る場所が一切ない。衣類や本などその下には何があるのかわからない程の物体が積まれている。もういっそのことすべてを捨ててしまいたい。それにはどうしたらよいか。
引っ越しだ。
引っ越せば否応なしに片付けられる。主に捨てることになるだろうが、その作業を強制的にやる羽目になる。
引っ越すと、気分が変わるし。などと思っていると、とても引っ越しをしたい気分になってくる。
そんなわけで、引っ越そうとして、ふと思い出すことがあった。
そういえば鍼灸師の先生が、風水もやってて、引っ越しの相談も受け付けていたな。
せっかくなので先生に引っ越しの相談をしてみることにした。
引っ越しは時期によって良い方位が変わる。とか、土地の氣と合う、合わないみたいな話を聞く。
めぼしい物件の間取りと住所のデータを送る。
「この部屋で過ごすと、身体が悪くなりますよ」
そんな部屋、絶対嫌だ。次。
「この物件は土地が寂しいですね」
確かにこの物件の周りはさびれている。何でわかるんだろう。次。
「ここはいいですね!ただ面している道の車の流れが速くないですか?」
面している道?
確かに、表の道は旧国道で、うちの近所でもトップクラスに交通量がある…。
住所も送っているとはいえ、俺の住んでいる町はなかなかのマイナータウンである。
先生はこの町に来たことはないはずだし、地図だけで交通量までわかりようがないはず…。
何より、データ送って1分も経ってないのに。
一応、聞いてみた。
『なぜ通りの車の流れが速いと思ったんですか?』
「氣の流れが速いから。」
いやだから、なぜそれがわかる?
『地図を見て判断されてるんですか?』
「いや、間取りだけですね。これくらいの情報なら一瞬でわかります」
間取りってただの絵じゃんか。なぜ気の流れってのが絵からわかるんだ。
…どういう仕組みなんだろう?
『どういう仕組みでわかるんですか?』
「なんとなく。見たらわかります。」
もはや理解不能だが、10以上の物件を送ってみて、周囲の状況がことごとく当たっている。
ここまで来ると、この先生の眼鏡に叶った物件なら、間違いない気がする。
しかし、空いている物件と俺のニーズなかなか合わない…。
一年が経った。
で、最近、不動産サイトで賃貸物件を眺めていたら、いい賃貸が空いていた。
おおっ、いいじゃないか!
早速、先生にチャットで連絡。
『この物件、いいと思うのですが、どうでしょうか!?』
普段は即座に返ってくることが多いのだが、今回は忙しいのか連絡がない。引っ越しは今ではない。ということなのか…。
それから大した日数も経っていないが、先生から連絡があった。
「そんなことより、ですよ」
この始まり方、嫌な予感がする…。
「まずは彼女を作って、一緒に住む部屋を探しましょう!」
うわっ、やっぱりそう来たか。
丁度この日、気になっている子とたまたま、本当にたまたま二人で話す機会があった。
やっぱりいいなぁ。と思ったのだが…。
先生からの返信も計ったようにこの日の夜だった。
何もかも見透かされているようなタイミング、いや、面白い!
「じゃあいつ誘いますか?」
「心で答えてください…いつですか?」
「そうですね、明日ですか?」
矢継ぎ早に詰められるが、一つ問題が…。
『彼女、「明日休み」って言ってました』
「きぃいいい!」
全てチャットのやり取りなのだが、まるで直接話しているかの様な臨場感だった。
今は先生と客という、お金のかかった関係性ではない。
それなのに、結構な時間を掛けて応援というか、話をしてもらえるのは、本当に有難い。
まぁどうなるかはわからないけど、引っ越しはもう少し延期だな。
先にやる事が出来てしまったようだ。
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