親の心子知らず…

先日、母親から電話があった。

「電気アンカが欲しい。買ってきてくれん?」

何だ、電気アンカって、こたつの暖かくなる部分だけが独立しているような暖房器具か。
それなら電気毛布の方が良いのではないか。

「電気毛布?嫌よ。」

あ、そう。
まぁ電気アンカが欲しいというなら手配しよう。

電話を切り、電気アンカを適当に見繕い、買う準備をしていた。

数日後、また母親から電話があった。

「やっぱり電気毛布がいい」

…はぁ?
あの頑なな電気アンカ信仰はもう捨てたのか?
嫌味の一つも言いたくなったが、まだ買っていなかったし、
耳が遠い母親に細かい話をしてもどうせ通じない。

わかった。じゃあ電気毛布を買って行くよ。

電話を切る。

価格帯はシングルサイズで3,000円~5,000円程度。
パナソニック製のものがあったので、それにすることにした。
実際の品質も良いと思うが、
こういうブランドイメージが結構効くとみた。

Amazonで購入し、送付先を実家に指定。

届くタイミングで実家を訪問した。
実家を訪問という表現は適切なのか…変な気もするが、まぁいい。

荷物は既に届いていたが、未開封だった。

「何か届いとったけど、これあんたね?」

そうだよ。
宛先も何も見ていないのか。

どうせそんなこったろうと思いつつ、電気毛布を取り出す。

「あっ、パナソニックじゃ。こりゃええもんじゃね。」

予想通りの反応。
パナソニックだから良いとは限らないと思うが、
議論は不毛なのでしない。

「保証は?壊れたらどうすりゃええんね?」

うるせぇなぁ。
電気毛布なんて電熱線に電気通すだけの単純な作りなんだから壊れるかよ。
壊れたら買い替えればいいんだよ!

一息に言い放つが、たぶんちゃんと理解はしていない様子。

「まぁ…あんたに連絡すりゃええね」

はいはい。そうですね。
畳の上で実際にコンセントから接続させ、使い方を実践させる。
ただ差して出力のダイヤルを回すだけだが、
下手をするとこの操作すら後で電話して聞いてきかねない。

ついでに夏仕様のままになっているこたつテーブルを、
冬仕様にセッティングすることにした。

「こたつ布団、クリーニングに出したいんじゃが…」

え、何でだよ。汚れているようには見えないぞ。

「孫が…何年か前にこぼしたけ。」

何で今なんだよ!
反射的にツッコミを入れた。非合理過ぎる。

無視してこたつをセッティングする。
まぁ、敷物を敷いて、こたつ布団を掛けて天板を置くだけだ。
とはいえ、古いこたつなので、すべての部品が重い。
これは骨粗しょう症の母親一人で出来る作業ではない。

兄にやらせてもいいが、いつ来るかわからない兄に任せるのも無責任な気がした。

倉庫のような部屋から電気ストーブを引っ張り出し、
台所に設置。

これで実家の冬支度は完了。

帰る準備をして、玄関で靴の紐を結んでいた。

「あんた…これ貰ってくれん?」

見ると、ブランドものっぽいハンドバッグを持っている。
当然女性用である。

―いらん。

「なんでぇ?これ本物よ!」

そういう問題ではない。
俺が女物のハンドバッグを使うシーンは人生で皆無である。
たぶん今後もないだろう。
母親からもらったハンドバッグを人にあげる、ということならあるかも知れないが、
そんな下卑た真似はしたくない。

よく見ればきれいなバッグだし、デザインが悪いようにも思えない。

何が不満なのか聞いてみた。

「だって…街を歩いても同じバッグの人がおらんのんよ。何か恥ずかしいけ」

…何を言っているんだこの人は。
普通、同じバッグを持っている人がいる方が嫌なものではないのか。

他のやつと同じバッグがいいならスーパーの買い物袋でも使えよ!
脳内で言ってみたものの、口に出しても採用されるはずもないし、
実際に母親がスーパーの袋で街を歩いている姿を想像すると、
とんでもなく惨めな気分になってくる。

これ以上俺の心を浸食しないでくれ。
祈るような気持ちで実家の玄関のドアを閉めた。

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